リレー小説 vol4 A
『無題』5p
表紙へ 前へ 次へ |
10-1 ツーッ…ツーッ…ツーッ… 先手を打たれた…一番嫌な展開になった…金田はとっさの出来事に固まったまま、同じように固まってしまった頭をどうにか回転させながら“これからどうすべきか”と、考えてた。だが思考は堂堂巡り、彼女を押さえられたというだけで手も足もでない。幾分、美月に頼りすぎていたな…そんな自分に怒りと呆れを覚えるとだいぶ落ち着いてきた。とりあえず先程から、ツーッ…ツーッ…と耳障りな音を出す受話器をどうにかしようと思い、電話に戻した。 「電話‥‥‥!?」 はっと、これまで止まっていた頭がやっと動きだしたかの様にある事を思い出した。美月拉致という予測外の出来事で忘れていたが、今から何をしようとしていたのかを。再び受話器を取りダイヤルをした、そう‥‥‥“宮城家宅”へ。 どうにか首皮一枚繋がったと安堵していると。カチッ、電話が繋がる音がした。とりあえず真奈ちゃんから奴の事について聞こう、そう思い受話器に耳を傾けると‥‥ 『おかけになった電話番号は現在使われておりません』 ドッと嫌な汗が出た。 番号を間違えただけだろ、そう自分を落ち着かせて受話器を置き、今度は携帯の番号表を開き宮城家と記された番号で通話ボタンを押した。さっきのはただの間違いだと、はやる気持ちを押さえいたが。聞えて来たのは電子音、“おかけになった電話番号は現在使われておりません”ただそれだけだった。 FALLen LeaF(落葉) 人は堕ちる運命であり、散る事が最も美しい‥‥‥そういうコンセプトと葉太という自分の名をかけてそう名付けられた自殺サイト。一年前の事件の発端であり、奴が餌場といっていたもの。言葉巧みに人の心に付け込み、操り、最後には壊してしまう。そして、結果としての人の死を楽しむための場。何人死んだのだろうか‥‥‥そして何人殺されたのだろうか‥‥‥ 縄と十字架の並ぶ森林公園、紅の部屋、雪の降る桜波展望公園‥‥‥思い出したくもない記憶、しかし忘れられない記憶。「これは私自身の意志です!操られていたり、脅されてなんかいません……。」あの事件の最後をしめくくる言葉、忘れきれない言葉‥‥‥ ガタンッ…ゴトンガタン…ゴトンッ… 地下鉄の中、宮城家の事を考えているとそんな事ばかり頭に上がってくる。嫌な予想を振り払おうと頭を振る、顔を上げると暗やみと不安そうな自分の顔を写す窓ガラス。そこには夕方の奴の顔が思い出され、見ないようにと顔を伏せるとまた嫌な考えをしてしまう……そんな繰り返しをしているうちに大学前の駅を過ぎ、次が宮城家宅の最寄りの駅になっていた。あの後不安に駆られ、いてもたってもいられなくなって事務所を飛び出して今にいたる。「くそっ」と、悪態を吐き頭を抱えていると。『ドアが開きますので、入り口付近のかたはご注意ください……』そんな到着を伝えるアナウンスが流れてきた。 ホームから出口に向かう階段をカツン、カツンと、足取り重く上ってゆく。予想をするのは止めよう、ここまで来たら後は確かめてみればいい。そう決心をし、外の歩道に出る。するとそこには夕日を落としたかのような紅が広がっていた。 「嘘だろ…」 ウーッとサイレンを鳴らしながら大通りを行き交う赤い消防車、ピープォーと赤いサイレンを鳴らしながら走る救急車、そして夜空と黙々と上がる煙りをスクリーンに映し出される炎の紅蓮。それを見た瞬間に紅の部屋の情景と被り、急な目眩と吐き気に襲われ片膝をついた。そう、ブラットバスと化したアパートの一室に横たわる四人の屍と、反り血で全身を赤く染めたまま首を括っている屍が夕日でさらに紅くなっているあの部屋を‥‥‥ 「すごいわねぇ、あれ放火らしいわよ。」 「あらそうなの?恐いわねぇ。」 頭に浮かんだイメージを消そうとして、懸命に頭を振っていると野次馬の帰りだろう二人のオバサンが前方から歩いてくる。まだふらつく体をどうにか起こして、二人に話し掛けた。 「すみません、その事について詳しくいいですか…」 はじめ少々ギョッとしていたが、気さくにも語りだしてくれた。 「ここからでも見えるでしょあそこ、何だかはじめの一軒は放火でそこから周りに燃え移ってあんなになったらしいわ。何ていったかしら?はじめの家の人が怪我をしてたらしくて、さらにこの時間帯でしょ。」 「宮城さんだったわよ、初めに運ばれていった人でしょ。」 「そうだったわね、あの恐い顔の人。もしかしたらやくざ関係の事件かしら?」 |
10-2 宮城という単語を聞いたとき、思わず肩を掴み掛かりそうになったがなんとか抑える事ができた。目眩のお陰だろうか?それとも、希望を持っていただけで、こうなる予想がもうついていたからだろうか…ふっと、そんな事を考えていたが、頭を切り替えた。宮城さんは彼女等の様子からして、そこまでひどい事には為ってないようだ。一安心しつつ、何処に運ばれたのかを聞こうと思い、「恐いわねぇ…」と言い合っている彼女等に向かって声を発した。 「何処に運ばれたのか解りますか?」 「たしか…この辺りで緊急を扱っているのは、市立病院だけだと思うわよ。」 「そうですか…どうもありがとうございました。」 そう言って、背を向けて歩きだした。“可哀相に…”や“逃げ遅れた…”と言った言葉は出ていない、最悪というわけではない。そう自分を宥め宥め歩いていく。前の道路の脇にタクシーが停まっているのが目に入った。火事でも眺めているのだろう、運転席の窓から軽く身を乗り出してコーヒーを飲んでいた。 「…すみません、市立病院までお願いできますか。」 助手席のドアを軽くノックしながら尋ねると。「はいよ」気さくな声とともに後部座席のドアが開いたので。ガードレールを乗り越え、席に座ると「行き先は市立病院だね」確認をとる声が聞こえたので「そうです…」と軽く首を傾けながら返事をした。運転手はコーヒーを傍らに置き、貨走に切り替えるとそのまま車を走らせた。 軽く霧のかかった場所。囲んでいる木々の匂いと、その葉をかさかさと鳴らしながら吹いている磯風の匂い。時折打ち付ける波の音も聞こえて来る所、桜波展望公園。霧のせいで丸い街灯が、まるで薄雲に隠れた満月のような明かりを放っている。その駐車場の闇に紛れるかのように停まっている黒い車。そんな車のボンネットに腰掛けながら話している男が一人、斉藤である。 「へぇ……わりかし燃えてるなぁ、あんなになるならもう少し近くで見ればよかったよ。ここからじゃ提灯の明かりみたいだ……なぁよ、べつ猿轡とかしているわけじゃないんだから反応してくれてもいいんじゃねぇか?これじゃ独り言みたいだろが、まぁ周りに人が居ないからいいんだがな。」 「‥‥‥」 「ふぅん…今日は気分が良いからなんともないけどさぁ、あまり人の話を聞かないのはどうよ?……あぁ、それにしても気分がいい!アレ俺がやったんだぜ!今まで誰かにやらせて、そしてこんな風に眺めていたけどさ俺にもやればできるもんだな。ホントこの発見は嬉しい、もう昔の事はどうでも良い感じだ。探偵さんには悪い事した…あの時は燃やす前に肉団子に邪魔されたから仕方がなぇか、それで気が立ってたしよ。まぁ探偵さんには感謝だな、奴への復讐でこんなすばらしい発見ができたのだからさ。あんたもそう思うだろ?」 「……」 「まだ、だんまりか?テープと縄で助手席に固定しているだけなのによ。まぁそれは置いといて、こんな素晴らしい事に気付かせてくれた奴を俺の永遠のライバルにしてやろうと思う。俺のこの手で殺してやってな!あぁ、そうしてやろう。……ホント今日はなんて良い一日なんだ、素晴らしい発見もできたしよ、永遠のライバルもできた。運もよかったしな。移動しようかと思っていたら目の前に車があるし、さらにそれにあんたが乗っているしな。まだあそこに残っていたんだな?」 「……」 「はぁ…俺も嫌われたもんだな……まぁあんたには奴を呼ぶ餌になってもらうからよ。さぁて…そろそろ連絡してやるかねぇ、あたふたしてるだろうからな。」 そう言い終わると、おもむろに携帯を取り出してボタンを押しはじめた。西の空はまだ赤い明かりが灯っていた。 仄暗い廊下を歩いている。緊急車両の出入りなどでロビー付近は明るかったが、病室まで続く廊下は照明を落されていた。あれから運転手と軽く会話をしつつここ市立病院に辿り着いたのだが、会話の内容はほとんど覚えていない。常に頭の中では“巻き込んでしまった、どう償えば良いのだろう”と、それしか考えきれてなかったからである。ナース・ステーションで宮城さんの居る部屋を聞いて今に至るのだが、その目的の部屋まで辿り着いたようだ。実際どのような顔で会えば良いのか解らなかった、とりあえず謝るしかないそう思いドアをノックした。軽く静寂が返ってきた、問題を先送りにするだけだが寝ているのなら後日改めて来よう。今、顔を会わせなくて済むそう安堵していたが中から「開いてるぞ」と返事が返ってきたので、気を引き締めて中に入っていった。窓際のベッドに横たわっている巨躯の男と傍らに頭をベッドに伏せている女性の姿が目に入った、宮城親子である。姿を見た瞬間、いきよいよく頭を下げるしかなかった。 「…っすみませんでした!」 |
10-3 「病院で患者の容体を気にするより先に謝罪の言葉を出すか……まぁ、君らしい態度ではあるな。もう少し近くで話さないか?真奈も先ほど泣き疲れて寝たところだしあまり大きな声ではしゃべらん方がいい。」 そう言われたので顔をあげベッドの側によった。近づくと宮城さんの上半身のほぼ全てが包帯でおおわれている事がわかった。 「今回は色々と大変そうだな、まぁこちらも家を焼かれてしまったが。」 「すみません…」 「謝罪は一度で良いぞ、おまえが何度謝ろうが無くなったもんは返っては来ないのだからな。それに大事なものは何もなくなっちゃいないしな、家は保険で返ってくるし誰も死んじゃいねぇ、それにこいつも取って来れたしよ。」 そう言って少し照れ臭そうに笑いながら、奥さんの遺影と位牌を取り出した。 「確かに形のある思い出は燃えてしまったが、思い出は心の中にしまってあるし、こいつもこいつの笑顔もここにあるしよ。まぁあれだ、おまえが気に病む事は何もないということだ。それにしてもビックリしたぞ、真奈が男を連れてきたと思ったらそいつはわけがわからん事を言いだすしよ。さらに投げ付けてきたビンを割ったら火が吹き出してくるしな。」 がははっと笑っている宮城さん。今の話でだいぶ気を落ち着ける事ができた。「ありがとうございます」とお礼を言い、だいぶ遅い時間ですからと退室をした。宮城さんは「今度はメロンぐらい持って来いよ。」と、がははっと笑いながら見送ってくれた。だいぶ気持ちも楽になり、これからどうしようかと前向きに考えだしているときに携帯が鳴りだした。知らない番号からだったので取ろうか躊躇していたが、鳴らしておくのもあれかと思い通話ボタンを押した。すると忘れたくても忘れきれない声が聞こえてきた……「やぁ、こんばんは探偵さん。」 |
表紙へ 前へ 次へ |
novelへ戻る galleryへ戻る topへ戻る |